山形酒蔵巡りの最近の記事

日本酒ブームの火付け役となった漫画の一つに「夏子の酒」尾瀬あきら著があります
かつて主流だった三倍増醸酒と純米酒をめぐる問題など日本酒業界の抱える構造的問題を世に知らしめ、日本酒への関心が高まるきっかけになった漫画で、消費者のみならず「るみ子の酒」を醸す伊賀の森喜酒造場などの蔵人にも影響を与えた漫画です
 

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(講談社HPより拝借)
 

話の中で重要な要素となるのが『龍錦』と言う幻の酒米
実はモデルとなる酒米がありました
それが300年の歴史を誇る庄内の酒蔵、鯉川酒造の所在地余目が発祥とされる亀の尾
1980年代に[鯉川酒造]が阿部家から種もみを譲り受け復活させましたが
なんと3本の稲から栽培され増やしたそうです
 

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今回そんな亀の尾を醸す酒蔵「鯉川酒造」に伺いました
鯉川酒造は米どころ庄内の中心地余目町にあり、まわりを田ん圃に囲まれたこの地で、米作りから手がけた鯉川が醸されています
  

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1725年(享保10年)創業で300年もの歴史をもつこの蔵
現在の社長が11代目とのことですが、蔵の梁などにもその歴史を深さを感じてきました
 

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それに鯉川酒造はマンガ「夏子の酒」の著者、尾瀬あきら氏とも親交が深く
尾瀬あきら氏の作品である「夏子の酒」の他「那津の蔵」「蔵人」などにも何らかの形でかかわっているのだとか
 

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そんな鯉川酒造の酒蔵を特別に見学させていただきました
佐藤社長はじめ丁寧な説明をいただいた営業の佐藤さんに感謝です
 

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そこで見たこんな看板、1725年が創業だそうですが今年でなんと創業300年
まずはおめでとうございます
そして本年である2025年7月に記念祭が開催されるようです
 

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鯉川酒造では代表銘柄鯉川をはじめ、Beppin(別嬪)シリーズなども手掛けていて
そのラベルはイラストレーターの阪本正義氏がデザインしているのだとか
他にもマンガ家尾瀬あきら氏のアシスタントを勤めたことのあるマンガ家、池沢理美氏が作ったデザイン「鯉川 純米吟醸 あたためますよ」などがあるようです
  

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小説家、藤沢周平が自らの作品の中で「東田川郡の酒は、鯉川と竹の露が双璧」、と評していますが
藤沢氏の作品には前述の「亀の尾」に関わる話も登場していました
 

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さていよいよ鯉川酒造の酒蔵見学
まずは酒米を蒸す甑(こしき)と放冷機
ここでは和釜を用いた伝統的な蒸きょうがおこなわれているようです


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蒸きょうに使われるバーナーは現在こんな感じ
煉瓦でしっかり囲われているところを見ると、その昔は石炭や薪などが使われたのかもしれません
 

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洗米はこの機械で行われるようです
ウッドソンの洗米機以外のものをここで初めて目にすることに
 

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ステンレスで覆われているのは、麹室
そういや天理の稲田酒造の酒蔵を訪れた際に日東工業所社製の檜の麹室を見たことがありますが
見学の際に説明してくださった黒瀬杜氏は檜なんかではなくFRPとかステンレスの麹室で良かったのになんて話を聞いたのを思い出しました
 

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鯉川酒造に伺ったのは3月下旬でしたが、すでに甑倒し
あと数本のホーロータンクでもろみを醸し今年の造りを終えるのだとか
 

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搾ったお酒はこうして涼温倉庫で丹念に熟成され出荷されるのだとか
けれどお酒に色は付かないともおっしゃっていました
今はやり始めている琥珀色の長期熟成酒ともまた違うようです


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もろみを搾るのは「YABUTA」
整頓された酒粕も並んでいますが、やはりその処分には頭を抱えているようです
  

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ちなみにYABUTAは稼働中で、かすかにもろみを搾る音がしていました
ドライバーの私は味わえませんでしたが、我が家の奥さんはまさに搾りたてを味わっていました
蔵でなければ味わえない贅沢な一杯ですね
 

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試飲会用の酒を置くコースターには尾瀬あきら氏とアシスタントを勤めたことのあるマンガ家、池沢理美氏のイラストも見られます
ちなみに試飲会では「純米燗酒に恋をして」というほど燗酒にこだわる鯉川酒造ですから
燗酒も提供されることでしょう
ここを訪れた翌日ショウナイスイデンテラスのレストランでの食事会を予約してありますが今から楽しみです
 

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庄内余目町の鯉川酒造に続いて吾有事醸造元「奥羽自慢」にやってきました
この蔵も鯉川酒造同様、鶴岡で1724年創業の老舗の蔵で
日本酒の極致に近い6%精米の酒米で造られた「奥羽自慢6」や「吾有事」、そしてワイン「HOCCA」を醸す蔵です


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蔵を訪ねると、茅葺屋根の母屋に酒蔵が続く老舗蔵でした
ちなみにこの茅葺屋根の母屋は今も自宅として使われているのだとか
 

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実はここ奥羽自慢(旧佐藤仁左衛門酒造場)は、今から十数年前に経営不振と後継者不足さらには蔵元の病気などで廃業の危機にありましたが
そこを聞きつけた同じ庄内地域にある楯の川酒造(酒田市)の佐藤淳平社長が、300年もの歴史を持つ蔵を失ってはならないと
前身となる佐藤仁左衛門酒造場に足を運び、酒造り再開の人的支援を申し入れ一緒に酒造りを手伝うことになったのだとか
 

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そんな奥羽自慢を今回特別に酒蔵見学させていただくこととなりました
 

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酒米は、地元である庄内産の米(出羽燦々、美山錦、雪女神)を楯の川酒造の契約農家から分けてもらったうえ
楯の川酒造の自社精米機で精米して送られてきます
なるほどだから6%精米の酒米なんてものが可能なんですね
 

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そんな酒米は白米計量機にて正確に計量しこのウッドソンの洗米機で洗米されますが
脇のシャワーで更に洗い流すそうです
使用される水は超軟水、出羽三山(湯殿山、月山、羽黒山)のうち一番高い山である月山水系の水が使用され
年代物の甑で蒸されます
 

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麹室は最近改装されたようでピカピカのステンレスパネル麹室
 

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初めて目にしましたが、麹は恒温槽の「床用製麹機」が使って造られるようです
伝統と経験に則り醸される日本酒ですが
隅々で進化は続けられているようです


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出麹作業は写真の出麹ボックスの中に入れて
送風機で、風を送ることにより麹の水分量を調整すると説明を受けました
 

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酒母タンクは小さいものを使用
中温速譲で1週間くらいかけて酒母が造られますが
この仕込み蔵にタンクを入れて丁寧な作業が行われるようです
 

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サーマルタンクもこうしてずらりと並ぶ光景を見ると
なんだか頼もしく感じます
 

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これは洗瓶機(ボトルリンサー)でしょうか?
 

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レイメイの瓶詰機
 

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火入れにもこだわりがあるようで
この清酒加熱殺菌装置が使われるようですし


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物によっては瓶燗も行われるようです


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酒蔵見学に伺ったこの日、酒蔵には爽やかなゆずの⾹りが漂っていましたが
ちょうど奥羽自慢 ゆず酒が瓶詰されていたようです
 

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こうして醸された日本酒などの商品は、保冷庫の中で出荷を待ちます
 

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酒蔵を巡って気づくことがりますが、こうして全量保冷庫で保管される酒蔵が多くなってきました
やはり暑さなどで日本酒にダメージを与えないための配慮なんですね
 

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配慮と言えばこんな瓶が割れないように梱包するダンボールなるものも見せていただいたりもしました
こんな感じで長い時間、営業の五十嵐さんと製造を担う石塚さんの説明を受けつつ酒蔵見学させていただきましたが、感謝です
 

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庄内酒田市の居酒屋で燗酒を頼めば、ほぼ東北銘醸の定番地酒「初孫」が出てくるなんて話を聞きますが
そんな「初孫」を醸す東北銘醸にやってきました
北海道に住む私ですら何度か飲んだことのあるメジャーな日本酒
蔵の規模も大きく先日伺った鯉川酒造や奥羽自慢のような歴史の重みを感じさせるような酒蔵ではなく、いかにも日本酒工場のような蔵でした
とはいえ伺ったのは土曜日ってことで蔵はお休み
 

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もっともこれは最初から分かっており
目的は東北銘醸に隣接する資料館「蔵探訪館」の方で
「日本酒のすばらしさをもっと多くの人に」といったコンセプトで開館されたこの施設を見にやってきたというわけです
 

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エントランスではほのかに日本酒の香りが漂っていました
 

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展示室では原材料の一つ酒米の稲穂が展示されています
「山田錦」や「雪女神」などを見るとコシヒカリなどの食用米と比べて稲穂が長いのが特徴で
草の部分が多い分、粒の大きなお米となるため心白もその分大きくとれるので酒米として重宝されています
ただ栽培期間も通常より長くなりがちで、台風などの被害に晒されやすいため、栽培には苦労が絶えないそうです
そう最近では私の住む北海道でも酒米が盛んに栽培されておりますが、台風などの被害は内地と比べ格段に少ないでしょうから、北海道は将来有望な酒米産地となるやもしれません
そういや芦別市の加藤農場では数年前から「山田錦」の栽培を始めたようですし
  

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この展示室にある「全国酒造好適米一覧」には残念ながら
北海道で栽培されている「吟風」「彗星」「きたしずく」の名は有りませんでした
 

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展示室では醸造工程を写真やパネルでわかりやすく解説
品評会で受賞した数々の賞状や昔ながらの木製の麹箱や木桶なども合わせて展示されています
  

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そんな昔ながらの酒造りを伝える焼き物の模型(これ一セット欲しいかも)がありましたが
特に目を引いたのが「山卸し(酛摺り)」
これは1700年ころ確立した日本酒造りの工程で、櫂を使い、桶の中の蒸し米と麹を2人1組になってすり潰す作業で
通常、厳寒期の深夜に数回に分けて行わなければならず、蔵人にとってたいへん過酷な作業となります
これにより蔵に存在する乳酸菌を取り込んで乳酸が生成され不要な雑菌を死滅させることにより酒母を腐敗から守り、酵母の増殖を促す、なんだか現代のバイオ技術なんて思える所業です
東北銘醸では創業以来一貫して時間と手間がかかる昔ながらの伝統手法「生酛造り」による酒造りを『全量』において行っていると言うから驚きです
最初に日本酒工場などと書かせていただきましたが、なんだか失礼なことを書いたような気がしてきました
 

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そんな酛すりで造られた商品の紹介コーナー
「大吟醸 仙寿 初孫」
「純米大吟醸 祥瑞 初孫」
「純米吟醸酒 夢工房 初孫」
「辛口純米酒 魔斬 初孫」
「生酛造り 純米酒 初孫」
「本醸造 本撰 初孫」
晩酌酒から大吟醸まで幅広いラインナップですね
 
 
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庄内酒田の昔を伝えるコーナーには
その昔、大いに活躍した陶器製酒樽とともに
「日和山公園の北前船」
「酒田の舞妓」
「山居倉庫」の写真が展示されています
ちなみに北前船の往来で栄えていた当時、酒田には約150人の芸妓や半玉がいたものの現在は衰退
町おこしの一環として「舞娘さん制度」が創られ、「酒田舞娘」として復活し酒田の舞妓は舞娘茶屋「相馬樓」にて今も健在なんだそうです
  

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最後は利き酒コーナーへ
 

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私はレンタカーの運転があり飲めませんでしたが
我が家の奥さんは
「蔵出し原酒 蔵探訪」
春季限定「美咲 純米大吟醸 生酛造り」
「辛口純米酒 魔斬 初孫」を堪能していたようでした
 

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